【 この世の摂理 】  

文野麗

「愛してと鬼が哭く」の話評である。
初めから通して読んでいるが、一貫して「公平な」物語である。登場人物たちはそれぞれに悲惨な過去を持っているが、だからといって展開は彼らに対し同情的になるわけではない。朱沙の門を潜るには大きな代償を払わなければならない。たとえ願うことが他者への献身であったとしても。そのあたりが、作品の底に流れる思想なのではないか。
さて今回の章は現代日本に生まれた不運な青年の生い立ちの物語である。石黒陽介は周りの「人間」たちから本当に愛されることはなかった。彼に無償の愛情を注いでくれたのは、「人間」に恐れ嫌われるはずの「鬼」であった。
「人間」と「鬼」が相容れないことには宿命的な断絶が感じられる。どちらかが強くなればどちらかは滅びるしかないのかもしれない。陽介は2度もその争いに巻き込まれる形となり、朱沙の門へ至る。それでも彼に待ち受けているのは取り返しのつかない喪失なのだ。結局のところ、朱沙の門で願いを叶えるのは禁忌なのだろう。
様式美は相変わらず素晴らしい。設定も深く広く作り込まれている。豊かな長編は一部分を切り取って見ても綻びなく優れている。

公開日時:2018-04-14

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