【オレンジ色の桜】  

オレンジ色の桜

ひらどー

 手鏡を覗きこむ。
 前髪に桜の花びらがついていた。そのままにしようかと数瞬悩んだが、指先でつまんで取ってしまった。そのまま、 毛先を整える。花びらがついていたこと以外は、三十秒前と変わっていないのに、いじらずにはいられなかった。
 手鏡を膝の上に置き、今度はスマートフォンを起動する。十七時七分。桜が夕陽に染まり始めた。待っている間にインターネットで誰かのブログでも見ようかと思ったが、全く頭に入ってこない。結局、画面を明るくしては暗くして、と同じ動作を繰り返すだけだった。
 いくら何でも遅い。
 相手は元生徒会長だ。他の生徒だけでなく、教師にも人気がある。色んな人に捕まって、卒業式が終わってからも簡単には脱け出せないだろう。それを読んだ上で、時間を決めた。
 再びスマートフォンを操作する。今度はチャットアプリを開いた。
『今日、十六時にさくら公園に来てください』
 確かに、十六時に、と書いている。場所もここ、さくら公園を指定していた。
 既読のサインはついているし、『分かりました』という返信もきている。
 来るはずだ。
 約束をすっぽかすような人ではない。
 太陽が沈みかけてから、やっと彼は来た。公園の入り口に自転車を停め、こちらに駆け寄って来る。
 自分の心臓がはち切れそうなくらい、激しく脈打つのが分かる。つばを飲み込んで落ち着かせようとしたが、効果がない。
 彼が、目の前に来た。申し訳なさそうに何かを言っている。心臓の音がうるさくて、上手く聞き取れない。
 このままでは駄目だ。言わなくては。
 すう、と深く息を吸った。
「好きです」
 頬に血が上る。照れと恥ずかしさが一気に押し寄せてきた。
「俺も、好きです」
 鼓動の合間に聞こえた言葉に、顔を上げた。
 赤く染まった頬は、夕陽の色によるものだけではない。
 彼の手が、ぎこちなく伸びてくる。自分の手の甲に優しく触れるのを感じた。
 風で舞うオレンジ色の花びらは、まるで二人を祝福してくれているかのようだった。

公開日時:2018-03-30

作家からの一言

初投稿作品。 これからもこういう雰囲気のものを投稿していきたいです。


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